
戦場のマリオネット
第5章 真実と本音
代われるものなら代わってやりたい。
私もイリナを羨んだことはある。
二十一年前、チェコラスの侵攻を皮切りに抗争は瞬く間に苛烈を極め、両国は多大な打撃を受けた。両者とも手の打ちようもないまで疲弊して、全会一致で一時的な休戦が決まった。
その時、人質として差し出されたのが、チェコラスはオーキッド家の、コスモシザはアイビー家の、当時まだ幼かった娘達だった。
歴代に亘って、両家は国の要となる位置にいた。その後継者の交換は、互いに牽制し合う意味を持つ。
それから約二十一年、チェコラスとコスモシザは危うくも均衡を保ってきた。
しかしジスランは、取り決めを一つ反故にしていた。
交換された娘達は、出生を知らず生かされていくはずだった。しかしイリナが何も聞かされなかったのに対して、私は両親となった二人に全て聞かされていた。
「二十一年前、チェコラスは無念の敗北を味わった。敗因は分かっていた。臆病風だ。軍人と言えど、やつらは重要なところで情に絆され、敵に手心を加えてしまうのだ」
父の淡々とした声が、私も実際にはほとんど覚えていない旧時を回想していた。
