
戦場のマリオネット
第5章 真実と本音
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一同が屋敷へ向かう途中、イリナは酷く震えていた。
もう支えなくても歩けるはずなのに、彼女は私の腕にほとんど掴まるようにして歩き、必死に目を凝らそうとしているのが分かる。
それも仕方ない。
事実上、リディの両親は幽閉されたも同じだ。本来、彼女達の立場はかなり危うい。
広間には、アレットも召集されていた。彼女は私の帰りを喜び、コスモシザ陥落を祝福した。
私は彼女に従えていたメイド達からも労いの言葉を受けながら、本当に顔色の悪いイリナの片手を握った。
「コスモシザは、敗けました」
私達が一堂に会したところで、第一声、母がチェコラスの勝利を宣した。
「イリナ、お帰りなさい」
続いた言葉に目を瞠ったのは、メイドや隊員達を除いては、あらかたイリナだけだった。
母はイリナに距離を詰めると、実の娘に施すような抱擁をした。イリナと私の繋いでいた手が離れていった。
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさいね、イリナ……」
「待って、オーキッド夫人、どういうことですか?」
「お母様、と、呼んで。イリナ」
「……っ?!」
イリナが母を押し返し、その顔を見た。彼女が辺りを見回すと、誰もが驚きもしていない。おそらく私も、初めて聞いたような顔は装えなかったと思う。
こうして向かい合う母娘は、本当に似ている。
オーキッド家の特徴をこれでもかと言わんばかりに受け継いだイリナは、この屋敷にいて何も思わなかったのが却って不思議なくらいだ。
