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戦場のマリオネット

第5章 真実と本音


* * * * * * *

 ローズマリー一家を西の城へ引き連れていった部隊と別れて、私は父やミリアムと共にチェコラス城へ参上した。

 吉報を持ち帰った私達を、公爵は長年の溜飲が下がったように晴々しい顔で迎え出て、労い、褒め、喜んだ。

 祝砲が上がる。町は既に祭り騒ぎだ。


「よくやってくれた、ジスラン、ラシュレ、ミリアム。お前達のお陰で我が国は安泰だ。アレットのことだが、約束通り、縁談は彼女の意思に任せよう」

「畏れ多いお言葉です、公爵様」

「とは言え、あれで上手くいっておるみたいだぞ。ジスラン、いくら娘が可愛くても、無理に別れさせぬようにな」


 からかうように目尻に皺を刻んだ公爵が、父を小突いた。

 日盛り前の城の門前、いつからか私は公爵夫人の視線を感じていた。

「本当に有り難う、ラシュレ。この恩賞は必ず……」

「貴女が励まして下さったお陰です、公爵夫人」

「まぁ」

「このチェコラスに身を捧げると、お約束通りにしただけです」


 彼女の手を取り、腰を低めて甲にキスする。

 頬を上気させた公爵夫人が、少女のように微笑んだ。


「イリナのことも話さねばな、ジスラン」


 公爵が、相変わらず旧友に接する調子で父に話しかけていた。


「これも褒美だ、お前の好きにするが良い」

「有り難きお言葉です、公爵様」


「…………」

「隊長?どうかされました?」


 ミリアムの声にはっとする。

 何でもない、と返す私は、急にイリナの顔を見たくなった。

 チェコラスがこんなにも浮かれているこの時、彼女は屋敷で、どんな思いで過ごしているのか。

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