
優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第18章 揺れる日々
「……咲」
せめるでもない優の声に、少しだけ安心しながら、謝ることしかできない。
「ごめんなさ……い。……ごめんな……さい」
優が、わたしの横に立つと、背中を撫でた。
止まらない涙と、始まらない治療に、罪悪感を覚える。早く止めなくちゃと思えば思うほど、大粒の涙が頬を伝っていった。
「大丈夫よ、焦らなくても」
「咲……ここ最近、情緒が安定してなくて」
そっと悩みを打ち明けるような優の口調に、早乙女先生が応えた。
「よっぽどつらいのね、苦しくて苦しくて、仕方がないって感じかな?」
早乙女先生が、椅子に座ったまま、膝をつきつめるようにわたしに近づく。
ゆっくりと、細くて華奢な手が頭を撫でた。
……やわらかくて、温かい。
そういえば、こんなふうに女の人に頭を撫でてもらったのは、初めてだと思い知る。
「医者としてだけど……毎日、色んな人の苦しみに触れてきているわ。咲ちゃんは……そうね、無意識に色んなことを我慢しているのかな? んー、なんか、我慢っていうよりは、耐えているような」
そう話してはいるけれど、膝をくっつけて座っている早乙女先生は、お医者さんより近くに感じた。
優や春ちゃんが、優しく接してくれている時と近い……きっと、早乙女先生のお母さんの顔。
「大丈夫よ。ずっと我慢することはないわ。澤北も井田も、咲ちゃんが溜めていたことを、全部受け止めてくれるはずよ」
頷くように、優が背中をさする手を僅かに強くする。
誰にも打ち明けられず、心にとどまっていたものが、少しずつ軽くなる。ゆっくりゆっくり、息を吸うと、罪悪感が薄まるようだった。
優も、早乙女先生も、心配している……。
それに気づけた時、魔法のように、涙が、少しずつ引いていった。
