
優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第18章 揺れる日々
少しぼーっとした頭で、診察室のベッドの上に横になる。
治療がひとりでできないことになってここに来たが、今日の診察は定期検診も兼ねていた。
お腹の上、下腹部をプローブが滑る。様子を見ていた早乙女先生と優が、思わしくない顔をしているのを盗み見て、目を瞑った。
……やっぱり治療も怖い。
早乙女先生が口を開く。重い空気はどうやら、わたしの想像以上に容態が良くないからのようだった。
「2センチ……いや、3センチ……ですか?」
画面を見つめながら、優が静かな声で早乙女先生に尋ねる。
「うん。それもいくつか。痛みが出ていないのが、不思議なくらいだわ……」
残っていた涙が耳の方へと伝う。首を横に振りながら、涙を拭った。
治療が苦しくなる現実を受け入れたくなかった。
「嫌だよね、そうだよね……」
早乙女先生が、念入りにプローブを動かす。
短いため息とともに、意を決したように、つらい現実を突きつける。
「咲ちゃん……咲ちゃんのお腹に、2、3センチくらいの血の塊が3つある。指の刺激で全部取り除けたらそれで終わりなんだけど……もしかしたら、機械を使うことになるかもしれない」
「いやだ……」
「咲」
とがめるように名前を呼ばれて、口を閉ざす。
見つめてきた優が、もう医師の顔をしている。これ以上は嫌だと言えない雰囲気になって、緊張が走った。
「ごめんね、咲ちゃん。なるべく指で刺激してみるからね。痛みが出る前に、すぐ楽にしよう」
お腹のジェルを拭き取りながら、早乙女先生が言う。
治療をしなければ、腹痛に襲われる。
歩けなくなるくらい痛かったことを思い出して、それも嫌だと、ゾッとする。
「咲、頑張ろう。すぐ終わるから」
拒否できない、逃げられない。
フタをしていた憂鬱が、一気に襲ってくる。
……でも。痛い方が嫌だ、つらいに決まっている、となんとか自分を奮い立たせる。
それに今日は、早乙女先生だ。いくらか恥ずかしさは軽減されるはずだ、と思い込んで…………なんとか首を縦に振った。
