
優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第18章 揺れる日々
……結果的に、1人で治療はできなかった。
また突然不安の波が襲ってきて、平常心では居られなくなったからだ。
夕食後、1人でお風呂に入っていた時から、不安はむくむくと立ち上がり、いつものように、足のつかない海に投げ出されるような感覚になる。
急いでリビングに戻って、キッチンに春ちゃんを見つけると、服の裾を掴んだ。
……春ちゃんは、明日のお弁当の用意をしていた。
「っはぁ、はぁ……はるちゃん……!」
溺れる前に、なんとか掴まった。
……息が乱れている。
「おやおや……また来たね」
わたしの不安を迎え入れるかのように、服の裾に掴まっていた手を、春ちゃんの手が捉えた。
力を入れていた拳が、緩まっていく。
「大丈夫、もう大丈夫だよ」
逆にぎゅっと握られた手が温かくて、気づいたらぼろぼろと涙が出てきていた。
春ちゃんに手を握られたまま、涙を流して立ち尽くす。
その様子を見ていた優が近づいてきて……。
わたしのことをふんわりと抱き上げると、そのままリビングのソファに座らせた。
2人の体温が、何よりの特効薬だった。
優も春ちゃんも、不安が収まるまでずっとそばにいてくれた。
「咲、大丈夫。ほら、少し横になろうか。大丈夫、大丈夫」
座った春ちゃんの太ももに、頭を預ける。
「怖い……苦しいよ……」
ソファで横になったら、涙がたくさん、目尻を伝ってこぼれていった。
溺れそうになりながらも、前より確実に、その中でもがくことができてきていた。
自分の心の中にある言葉をこぼすと、それを2人が拾ってくれた。
「咲、えらいね。大丈夫だよ」
春ちゃんがボロボロと零れる涙を拭ってくれた。
「ゆっくり、息吐いて。ゆっくり……そう、上手だ」
優は、わたしの背中を擦りながら声をかける。
そうしているうちに、不安は暴れるのをやめて、心の中にとどまっていくんだけれども……。
ひとしきり、心の中の不安と戦っていたからか、それが収まるとすぐに眠気がやってくる。
泣きながら、でも呼吸がゆっくりと落ち着いて、まぶたが重くなっていく。
「咲、寝ていいぞ。今日はこのまま」
優に言われるがまま、目を閉じた……。
