
仮面舞踏祭~カーニバルの夜に~
第1章 祭りの夜
友里奈の勤務する会社は外資系の結構名の知れた出版社だった。伸吾は営業、友里奈は総務、香恵は編集に所属していた。友里奈と伸吾が親しくなったのは、営業部の彼が必要な書類を総務に届けにきたのが始まりだ。
伸吾は今風のイケメンというのではないが、不思議に人好きのする男だ。また、どうすれば自分をより魅力的に演出できるかというコツを心得ているので、おしゃれも上手である。なので、二枚目半くらいでも十分、〝良い男〟に見えた。一方の友里奈といえば、おしゃれも下手だし、平凡中の平凡。10人と出会って、その中の2人が覚えていてくれればマシというくらいの印象の薄い目立たない女なのだ。
だから、先に伸吾の方から〝付き合わない?〟といわれたときには正直、驚いた。今から思えば、あれもどこまで本気だったか知れたものではない。まあ、彼がそれまでの人生で付き合った女たちとは全く別種類だったから、物珍しく見えたのだろう。それが意外に長続きしたというところだろうか。
香恵が辞め、友里奈も辞めてほどなく、伸吾自身も会社を辞めた-と、これは、後輩の女の子からのその後の電話で知ったこと。やはり、大切な取引先のお嬢さんを泣かせたことが我が社の社長の耳に入らないはずがない。
伸吾が半ば辞めさせられるという形で辞表を出したと聞いても、友里奈の心は晴れなかった。あんな男、良い気味だ。どこに行ったって、どうせ良い加減でその場限りのことしかいわないから、信用なんてされるはずがない。
思い切り笑ってやれば良いのに、何故か心は余計に沈むばかりだった。例の伸吾が辞めたという知らせを教えてくれた例の後輩に話すと、その子はメールでこう言ってきた。
-先輩、それって、もしかして未練ってヤツじゃない?
その瞬間、ケータイの画面に打ち出された文字を何度も眺めながら、友里奈は妙に納得してしまった。
そうか、私はまだあいけ好かない卑劣漢に未練を持っているのか。
我ながら、みっともない話だとも思ったが、〝未練〟だとはっきり指摘されて、かえって気が楽になった。永遠に答えの見つけられなかったクイズの解答を教えて貰ったような気分になった。
伸吾は今風のイケメンというのではないが、不思議に人好きのする男だ。また、どうすれば自分をより魅力的に演出できるかというコツを心得ているので、おしゃれも上手である。なので、二枚目半くらいでも十分、〝良い男〟に見えた。一方の友里奈といえば、おしゃれも下手だし、平凡中の平凡。10人と出会って、その中の2人が覚えていてくれればマシというくらいの印象の薄い目立たない女なのだ。
だから、先に伸吾の方から〝付き合わない?〟といわれたときには正直、驚いた。今から思えば、あれもどこまで本気だったか知れたものではない。まあ、彼がそれまでの人生で付き合った女たちとは全く別種類だったから、物珍しく見えたのだろう。それが意外に長続きしたというところだろうか。
香恵が辞め、友里奈も辞めてほどなく、伸吾自身も会社を辞めた-と、これは、後輩の女の子からのその後の電話で知ったこと。やはり、大切な取引先のお嬢さんを泣かせたことが我が社の社長の耳に入らないはずがない。
伸吾が半ば辞めさせられるという形で辞表を出したと聞いても、友里奈の心は晴れなかった。あんな男、良い気味だ。どこに行ったって、どうせ良い加減でその場限りのことしかいわないから、信用なんてされるはずがない。
思い切り笑ってやれば良いのに、何故か心は余計に沈むばかりだった。例の伸吾が辞めたという知らせを教えてくれた例の後輩に話すと、その子はメールでこう言ってきた。
-先輩、それって、もしかして未練ってヤツじゃない?
その瞬間、ケータイの画面に打ち出された文字を何度も眺めながら、友里奈は妙に納得してしまった。
そうか、私はまだあいけ好かない卑劣漢に未練を持っているのか。
我ながら、みっともない話だとも思ったが、〝未練〟だとはっきり指摘されて、かえって気が楽になった。永遠に答えの見つけられなかったクイズの解答を教えて貰ったような気分になった。
