
仮面舞踏祭~カーニバルの夜に~
第1章 祭りの夜
記憶がまた無意識の中に巻き戻されてゆく。あたかも出来の悪い素人自主制作の映画を見ているように、〝あの日〟が頭の中でフラッシュ・バックする。
会社帰りに立ち寄った駅前のスナックで、伸吾からいきなり別れ話を切り出された、あの夜。友里奈には、まさに晴天の霹靂だった。正式な婚約こそしていなかったが、既に互いの家にも挨拶に行き、どちらの両親からも結婚についての承諾を得ていた。
結納や式の話もつい半年前までは伸吾と熱心に交わしていたのだ。なのに、半年前くらいから、伸吾は急にその手の話題-二人の未来とか結婚の話を避けたがるようになった。
思えば、その頃は、香恵が〝恋バナ〟の相談で〝元彼とよりを戻すには、どうしたら良いか〟と伸吾に相談を始めた時期と重なる。
何が元彼だ、恋バナの相談だ。あれは香恵が仕組んだ巧妙な罠であり嘘であった。さらに悪いことに、伸吾はその罠が罠であると知りつつ、騙された風を装い香恵と関係を持った。
だが、茶番はそれだけで終わらなかった。伸吾は香恵とも結婚する気は全くなかった。計算高い彼は取引先のK社専務の一人娘と結婚するつもりだったのだ。専務はK社の代表取締役の弟であり、あそこの社長に実子はおらず、その後は弟の専務が継ぐことは業界関係者なら誰もが知っていた。
つまり、香恵も友里奈も伸吾に良いように遊ばれた、ただそれだけの話だ。
天が遠くにあるから甘く見ると、とんだ天罰が下るとはよくいうけれど、伸吾の場合もまさにそれだった。私に別離を切り出そうと駅前のスナックに呼び出した夜、何と香恵が血相変えてやってきたのだ。
-伸吾さんを返して。私のお腹には赤ちゃんがいるの!
友里奈は心底あきれ果てた。何が伸吾さんを返して、だ。元々、そちらが私の彼を横から奪っていったのではないか。
-赤ちゃんがいるですってよ、伸吾。
友里奈と伸吾はカウンター席に座っていたが、彼女は眼の前に置かれたすっかり生温くなったテキーラを伸吾の頭の上からかけてやった。
会社帰りに立ち寄った駅前のスナックで、伸吾からいきなり別れ話を切り出された、あの夜。友里奈には、まさに晴天の霹靂だった。正式な婚約こそしていなかったが、既に互いの家にも挨拶に行き、どちらの両親からも結婚についての承諾を得ていた。
結納や式の話もつい半年前までは伸吾と熱心に交わしていたのだ。なのに、半年前くらいから、伸吾は急にその手の話題-二人の未来とか結婚の話を避けたがるようになった。
思えば、その頃は、香恵が〝恋バナ〟の相談で〝元彼とよりを戻すには、どうしたら良いか〟と伸吾に相談を始めた時期と重なる。
何が元彼だ、恋バナの相談だ。あれは香恵が仕組んだ巧妙な罠であり嘘であった。さらに悪いことに、伸吾はその罠が罠であると知りつつ、騙された風を装い香恵と関係を持った。
だが、茶番はそれだけで終わらなかった。伸吾は香恵とも結婚する気は全くなかった。計算高い彼は取引先のK社専務の一人娘と結婚するつもりだったのだ。専務はK社の代表取締役の弟であり、あそこの社長に実子はおらず、その後は弟の専務が継ぐことは業界関係者なら誰もが知っていた。
つまり、香恵も友里奈も伸吾に良いように遊ばれた、ただそれだけの話だ。
天が遠くにあるから甘く見ると、とんだ天罰が下るとはよくいうけれど、伸吾の場合もまさにそれだった。私に別離を切り出そうと駅前のスナックに呼び出した夜、何と香恵が血相変えてやってきたのだ。
-伸吾さんを返して。私のお腹には赤ちゃんがいるの!
友里奈は心底あきれ果てた。何が伸吾さんを返して、だ。元々、そちらが私の彼を横から奪っていったのではないか。
-赤ちゃんがいるですってよ、伸吾。
友里奈と伸吾はカウンター席に座っていたが、彼女は眼の前に置かれたすっかり生温くなったテキーラを伸吾の頭の上からかけてやった。
