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ユリの花咲く

第2章 瑞祥苑

そういえば、あの頃の敦子は、ちょうど今の私と同年代だった。

「もう、アラフォーだから」

が、敦子の口癖だったから。


敦子には夫と、2人の子供がいた。
当然、私たちの関係は、誰にも秘密だった。

敦子は夫とも、セックスはあったようだが、
それを嫉妬する気持ちは少しもなかった。

敦子と、週に何度か愛し合う事で、私の欲望は程よく満たされていた。

自分は、男とのセックスはもういらないと思ってたし、夫や子供を不幸にしようなんて思いもしなかったから。

そんな関係に終止符を打ったのは、敦子の妊娠だった。

定休日の前に、愛し合ったあと、敦子が申し訳無さそうに言った。

「有紀、実は私、妊娠したみたい・・・」

「えっ?私の子供?」

私はわざとふざけて言った。

「バカ!真面目に言ってるのに!」

「ごめん・・・。でも、おめでとう」

私は心から言った。

それでも敦子は、浮かない顔で言った。

「でもね、私、堕ろそうかと思ってるの。
まだ、ダンナには何も言ってないし・・・。
有紀とも、もう逢えなくなるし」

パシーン!

私は、敦子の頬を打っていた。

「何を言うの!せっかく授かった命なのに!
私は・・・、私には、絶対に授からないのに!
二度と、バカな事を言わないで!」

敦子の気持ちは、涙が出るほど嬉しかった。

でも、敦子の子宮に宿った命を、葬り去ることなんて、絶対にできない。

「ありがとう、有紀」
涙で顔をくしゃくしゃにしながら、私の手を握った。

「バカねえ、敦子。私だって女だよ。敦子の気持ち、わからないとでも思った」

「ありがとう、ありがとう。私、ホントは産みたい。この年で赤ちゃん産んだら、あとあと大変だけど、やっぱり産みたいんだ」

「それでこそ、私の大好きな敦子よ」

私は敦子の身体を思い切り抱き締めた。

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