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ユリの花咲く

第2章 瑞祥苑

遥が肩を震わせている。

沈黙の時間が流れる。


私は、4年制大学を卒業し、大手メーカーに就職した。

1年ほどして、先輩に当たる男性と恋に落ち、25歳の時に結婚。
ごく普通の結婚生活を送っていたが、自分が不妊症だとわかった事と、時を同じくして発覚した夫の浮気が原因で、28歳で離婚した。

夫は、土下座して詫びてくれたが、私はそれほどショックでもなかったし、
かえって、子供のできない私と結婚してしまった夫に、申し訳なくも思っていた。

そもそも、夫との結婚生活には、違和感もおぼえていた。

夫に抱かれる度に、
『何かが違う』と思っていた。

夫と別れた後、生活のために働き始めた飲食店で、私はある女性と関係を持った。

飲食店での歓迎会の帰り、店長を任されていた前原敦子が、『女の一人歩きは危険だから』と言って送ってくれた。
敦子は、少しポッチャリしたグラマラスな女性だった。
いわゆる美人ではなかったけれど、笑顔が素敵な人で、心遣いの行き届いた人だった。

面接では、飲食店など全く未経験だった私の不安を取り除いてくれた。

敦子に送られ、自宅の玄関前に着いたとき、私はいきなりキスされた。
唇を重ねるだけの、軽いキス。

「えっ?」
私が声を上げると、敦子はすぐに我に返ったようだった。

「ごめん!せっかくうちの店に来てくれたのに、私こんなことしてしまって。
ホントにごめんね。
水野さん、あんまりステキだったから、つい、私・・・」

店長は、オロオロしながら謝った。

でも私はその時、それまで男性とは感じたことのない昂りを感じていた。

「大丈夫です。私も、前原店長が好きですよ。
女性とは経験ないけど」

多分、アルコールのせいもあったのだろう。
私は少し微笑みを浮かべて、答えていた。

「それより店長、お茶でも飲んでいきません?
明日は定休日だし」

私の方から、そう言っていた。

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