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ユリの花咲く

第2章 瑞祥苑

遥は頷いた。

「あたし、逃げたんですよね。告発しても、何の証拠もないし、会社では男の方が重用されるんだって、失望して・・・。」

「それに、彼女が男と関係があったことがショックだった?」

「はい・・・。」

「よくわかったわ。それで、今回も辞めて逃げ出すのね?」

「・・・。はい。」
遥は、うつむいて答えた。

「わかったわ。じゃあ、もう止めない。
今日の事は、誰にも口外しないから」

私が席を立とうとすると、遥が手を掴んだ。

「でも、今回は、そんなことじゃ、ないんです。仕事の事じゃないんです!

過去の事は、有紀さんにだけは、ホントのあたしを知って欲しかったから、
聞いて欲しかったから、話しました。

でもそれは、あたしの中では、もう過ぎたことなんです。
仕事に身が入らないのは、ホントはそれが原因じゃないんです。

今日、ボーッとしてたのは、私のミスです。
もう少しで、橋本さんに怪我をさせるところでした。
でも、ミスしたから辞めるんじゃないんです。
介護が嫌だからじゃないんです」

私は、腰をおろした。

「ねえ、遥。あなたの心の中には、いったい何があるの?
力になれるかどうかわからないけれど、話してみて。
仕事以外の事が原因でも、私が何か力になれることはあるかも知れない。
たった3ヶ月の付き合いだけど、あなたをは信頼してるし、
出来ることなら、あなたには辞めてほしくない。

遥を・・・、自分の妹みたいに思ってるから」

「・・・やっぱり、・・・妹ですか・・・・」
悲しそうな笑顔を浮かべて、遥は言った。

「えっ?」

遥の言葉の意味がわからずに、私は聞き返した。

「辞めてしまったら、もう有紀さんに逢うこともないし、正直に話します。

あたし、

有紀さんが好きです」


「あ、ありがとう。私も遥の事が好きだよ」

私が答えると、
遥は激しく首を振った。

「そうじゃなくて!
あたしは・・・有紀さんを、愛してるんです!
有紀さんに、恋しちゃったんです!」

遥は叫ぶように言った。

「そ、そんなこと・・・」

私は動揺した。
何と答えていいのかわからない。
でも、心の奥底では、感じていたのだ。

私も、同じ気持ちを抱いていると・・・。

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