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ここから始まる物語

第22章 最後の戦い

「今のところ、被害はまだ出ていません」
「では、敵の数は」
「まだ不明です」
「敵の武器は? 姿は?」
「いずれも、不明です」
「ふむ」
 ゲンは顎をさすっています。
「もしや、まだ敵は姿を見せていないのではないかな」
「はい、まだ姿は見えておりません。しかし、音や声から察するに、相当な数かと――」
 兵士が言い終わる前に、ゲンは声をあげて大笑いしました。
「それなら心配はない」
「どういうことだ」
 ピスティが尋ねると、ゲンは唇をひん曲げて、あくどい笑みを浮かべました。そして、
「声東撃西――」
 と言いました。
「セートーゲキセー?」
 聞きなれない言葉です。
「どういう意味だ」
「これも『三十六計』に記されている戦い方のひとつ。西に声して東を撃つ。言ってみれば陽動作戦でございます。敵の注意を東に引き付けておいて、西から攻める、という基本的な作戦でございます。おそらく東で騒いでいる敵は、ごく少数にすぎないでしょう。それにかまけていると、正面の敵が一気に押し寄せてきますぞ」
「そうかもしれない。でも、ゲン。敵は軍事大国のエカタバガンだ。ひょっとしたら正面にいる敵が囮で、東で騒いでいるのが本体かもしれない。あの森は広い。正面の敵よりももっと多い敵が隠れているかもしれない」
「ご尤もですな」
 ゲンは孫を見る祖父のような笑みを浮かべました。
「さすがはピスティさまですな。そう考えることも充分に必要なこと。しかし、今回はそうではないでしょうな」
「なんで、そんなことが言えるんだい」
「考えてみてくだされ。もし本当に東の森から攻めてくるなら、ここまで聞こえてくるような大騒ぎはしますまい。もしも騒ぐなら、正面の敵でございましょう。何より――」

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