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ここから始まる物語

第22章 最後の戦い

 見ていたのは、コーリーでした。すがるような、それでいて何かを諦めるかのような目でこちらを見ています。が、フォビスが気づくと、コーリーはまたすぐに下を向いてしまいました。
 さっきまで語り合っていたことを、フォビスはまだ考えていました。コーリーは、フォビスをどう思っているのでしょう。いや、口ぶりからするに、きっと好意を抱いているのでしょうが、だとしても、どこまで自分について来てくれるかはわかりません。さっきは、小さくても家と畑を持って、牛を飼う暮らしではも幸せだと言っていましたが、あれは本気なのでしょうか。それとも例え話に過ぎないのでしょうか。
 フォビスは、まだ手をつけていないパンを取ると、コーリーに向かってそれを分け与えようとしました。しかし、それはできませんでした。その寸前に、アビナモスが割り込んできたのです。
「そういえば、おまえの分の食事がなかったな。俺のパンを、おまえにやろう」

 ※

 アビナモスがパンを差し出すと、コーリーは満面に笑みを浮かべて、
「ありがとうございます」
 と両手でパンを受け取りました。
 汚い身なりながらも、整った顔立ちと豊満な身体つき。
 さっきからフォビスの視線が落ち着かないと思っていたのですが、その理由がやっとわかりました。フォビスは、このコーリーという女に惚れ込んでいるのでしょう。
 口に出しては言いませんでしたが、実はフォビスもこの女を気に入っていました。
 コーリーは、アビナモスから受け取ったパンを、小さくちぎっては口に運んでいます。よほど腹が減っていたのか、コーリーは五口ほどをつづけて食べました。
 アビナモスはそれを眺めていましたが、しばらく見ているとコーリーはアビナモスの視線に気づいたらしく、照れくさそうに顔を赤くしました。

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