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ここから始まる物語

第22章 最後の戦い

「しかし――」
 フォビスが問いかけようとした時でした。
 アビナモスがテントへ戻ってきたのです。
 フォビスは口をつぐみました。コーリーも慌てた様子で下を向きます。
「敵は動きそうにないな」
 戻ってきたアビナモスは、不機嫌そうな顔のまま、椅子に腰を下ろしました。
「兵士たちも腹を空かせているだろう。包囲したまま、食事を摂らせることにしよう」
「それがいいですね。私たちも、食事を摂ればいい考えが浮かぶかもしれない」
 フォビスが賛成すると、アビナモスは外にいる見張りに向かって命令しました。
「全軍に伝えろ。食事だ。しかし包囲をしているから、敵の襲撃に油断しないように」
「かしこまりました」
 テントの外から返事があったかと思うと、土を蹴って走り去る足音が聞こえました。
「俺たちも食事をとる。用意しろ」
 アビナモスが続けてそう命令しました。
 しばらく経つと、見張りのひとりが料理を持ってテントの中へ入ってきました。
 持っている料理は、どれも質素なものばかりです。乾かして固くなったパンと、干し肉のかけら、水、それから、薄い味のついたスープです。質素ではありますが、戦場で出される食事としては贅沢なほうでしょう。
 見張りは、蹴倒されていた机を戻すと、その上に料理を置いてテントから出ていきました。
「では食べてくれ、フォビス殿」
「遠慮なくいただきます」
 フォビスは勧められるままに、まずは干し肉に手をつけました。乾いた肉を細く割いて、口に含みます。噛み締めると、強めの塩気が口に広がり、肉の匂いが鼻から抜けました。
「よい肉ですな」
 フォビスはさらに肉を割いて二口目を口に運ぼうとしたのですが、ふと動きを止めました。
 視線を感じたのです。

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