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第22章 最後の戦い

【反間計】

 エカタバガン軍の本陣は、混乱していました。
 千人もの密偵をアウィーコートの城下街に放ったのですが、戻ってきた密偵が、みんな違うことを言うのです。

 ピスティは病気に冒されている――。
 ピスティはいつもより元気だ――。
 ピスティは病気のふりをしてエカタバガン軍を油断させようとしている――。
 塀は西側に弱点がある――。
 塀の西側に弱点があるから、そこに兵士をたくさん置いている――。
 塀の西側に弱点があるように見せかけるために、そこへたくさん兵を置いている――。
 城下街では反乱が起きようとしている――。
 城下街では市民が義勇軍を起こしている――。
 義勇軍に見せかけた反乱軍である――。
 実は反乱軍は、新しく雇われた傭兵部隊である――。
 エカタバガン軍の中にも、アウィーコートの放った密偵が送り込まれている――。
 しかし密偵を送るには人手が足りない――。
 そう思わせておいて、本当は密偵が送り込まれている――。

 そんな報告ばかりなのです。
「これでは何が本当かわからん!」
 アビナモスは、腰から鞘ごと剣を抜くと、最後に戻ってきた密偵の頬を殴り飛ばしました。
「うッ」
 密偵は頬をおさえて身体を仰け反らせます。
「出ていけ!」
 密偵は、アビナモスの命令に従ったというよりは、逃げるようにテントから出ていってしまいました。
 苛立っているアビナモスを、フォビスはなだめます。
「アビナモスさま。腹を立ててはなりません。怒りをあらわにすれば、判断力と信頼を失います」
「他人事のように言うな!」
 アビナモスは頬をひきつらせながらフォビスを怒鳴りました。
「千人の密偵を送り込めば正確な判断ができると言ったのはお前だろう。それがうまくいかなかったというのに、腹を立てるなとは、どの口が言うか!」

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