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狼からの招待状

第4章 迷路 -MIROH-

 「グレ」顔を上げたマスターが、「思い出した、夕方ユノさん来て…」「戻られたんですか」「ああ…。霧が深くなるとタクシーもひろえない。お帰り頂いた」きびきびと、カウンターとマスターの間をジャスミンが行き来する。
 「明日の朝、連絡します」時計を見上げたグレの前に、顔を赤らめたジャスミンが香ばしい煙の立つ皿を置いた。



 「自分の子どもを助けてもらって…」「フライを見ようとも、しませんでした」
 水色の四角い車は、坂道を回り込みながら上がって行く。ハンドルを切るグレの髪が、晩秋の日差しに明るいブラウンに変わる。
 「ユノ先輩、あの灰色の塔が特別病棟です」
 グレの指し示す方に目をやった。「来たことあるの?」「研修で何度か…」急カーブが続く。
 「友だちから借りた─この車…」「はい」「タクシーみたいだね」「廃車寸前の個人タクシーを、タダ同然で─買い取ったって、云ってました」 遠くになだらかな田園地帯が広がる。紅葉が鮮やかだ。「みずいろのタクシーがあるんだね」「本物の個人タクシーに間違われるから、塗り直したそうです」
 突然、急な直線道路に出た。「あれが正門です」

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