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狼からの招待状

第3章 火影

 濃いブロンドの髪が、引きつった青ざめた顔を覆う。真っ白いブラウスの衿が、強く引っ張られてちぎれる。レースの下着と、豊満な胸を剥き出しにされた女性の、悲鳴をあげようとする唇を、ぶよぶよと水ぶくれた手のひらが塞ごうとする。
 女性の悲鳴のかわりに、上から幼児の泣き声が響く。痴呆のように空いた口の、キツネめいた陰険な顔が、上を見る。
 肥えた胴体。汗の染みたシャツの背中に、ハイキックが跳んだ。
 ヒステリックな悲鳴。押さえつけられていた女は、ずるずると壁に沿って崩れ落ちる。
 駄々っ子の仕草で、肥満体が太い腕を振り回す。
 軽く身をかわし、二重あごに固い革のブーツのつまさきを飛ばした。
 豚そっくりの鼻面から、血が出て、また男のヒステリックな悲鳴。
 逃げようと後退りして、手すりに巨大なヒップをぶつける。そのまま、くたくたと座り込み、鼻を両手で押さえすすり泣く。
 「レイさん…!」
下から女性の声が呼び掛ける。ハロウィンの日、教会からグレにエスコートされて出て行った、緋色に近い髪をした女性だった。
 出張ホスト─レイ。…グレの注意が下の舗道に向く。

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