テキストサイズ

狼からの招待状

第3章 火影

 肩までの黒い髪を、黄色いヘアバンドで押さえた女性と、両脇に分厚い本を数冊抱えた青年が、早口の英語で喋り合いながら、玄関ホールを通って行く…。図書館デートらしい。
 外の晩秋の日射しに、女子学生の揺れ動く髪が光る。ヘアバンドの黄色が、カロスキル(街路樹通り)の銀杏を、思い起こさせた。ソウルの銀杏は、もう散りはじめたのだろうか。
 「病院に付き合ってくれて、有難う」「昨夜から、お見舞いする気でしたから」
 司書らしい中年の女性が二人、ファイルを持ちながら箱の乗った台車を押して、レファレンス室の表示のドアに急ぐ。
 「月曜日。学校忙しいのに…」「今日は自主休講です」
 窓の外を通る女性講師らしい二人連れが、グレの横顔にちらりと視線を当てる。揃って背が高くブロンドの髪の二人は、精巧な東洋の人形のようなグレの貌に驚いたらしい。
 「今日は夕方から、ここで待ち合わせして─バイトです」「出張ホストの…?」グレが頷くと、髪から海風の香りがした。 
 「そうだ…」ユノの呟きに、首を傾げる。「教会の惨殺体…店に来た中年男だった」「チェン─とか呼ばれてた客の連れ?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ