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狼からの招待状

第3章 火影

「ご遠慮なく、こちらにおいでください。…お嬢様は挙式も延期になり、会長とコネチカットの本邸にて、お過ごしでございます」



 熱い湯気に曇るグラスマグ。「昨夜は熱が下がらず…心配致しました」「解熱剤の、効果でしょう」点滴パックのラベルに、グレは目をやった。 「感染による、高熱とのことでしたが、午前中の回診で、肺炎の可能性が強くなったようです」「寝たきりで、体力が落ちて」珈琲のマグの取っ手に指先をおく。
 「急に夜明けから、冷たい霧が出て」手入れの行き届いた爪の指が、グラスマグを持った。
 「免疫の落ちたところを、感染しての肺炎でしょう」「これから寒くなりますし…体力がつかなければ、退院も及びません」「あの…、エミンさん。ご家族のかた─は」黙って二人の話をきいていたユノが、口を開いた。 
 「本邸にしばらく御滞在されます」静かに答えた侍従は、キチネットに引き下がった。
 再び、黙り込んだユノに、「先輩。せっかくのココアが冷めます」明るい声をグレがかける。
 「失礼致しました。紅茶は如何ですか?」テーブルに銀の盆をおいた侍従が訊く。盆にはガラス製のポットがあった。

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