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狼からの招待状

第3章 火影

 ─ばさり…、と音がして、黒い死神のマントのような垂れ幕を、夜の風が持ち上げた。
 なかにいる女と目が合い、手招きされる…。
 古びた切り株のような小ぶりな椅子に座ると、真っ白い手がカードを数枚、捌く。…銀の髪が白い顔に翳をつくる、照明は狭いテントの端にカンテラひとつきり…「今夜は─キリスト教徒にとっては、恐怖の晩」沈黙していた女が、云った。
 カードを一枚開き、「心配事は─」手暗がりでよく見えないが、赤っぽい模様…「あぁ─恋人の身体ですね」「入院してるんです」ユノに頷き、「近くにいながら、会えない障害」白い細い手が、カードを操る。
 「はい」「状況が、変わりそうです」「え…」「離れる心。離れる二人」さらさら枯れ葉の音のカードたち…。
 「神の計らい、助けてくれる人物」黒いカードが、返る。ハートのKとダイヤのJ…「王のなかの王。そして花のような青年」指先が止まった。「二人には秘密がある…」
 ユノが女の顔を見る。大理石の触感を思わす皮膚は、目もとに皺があったが、サファイアの瞳が燃えるようにユノを見る。
 銀の髪は真っ直ぐに流れ、カンテラの炎に銀河の雫の輝きを放つ。

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