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狼からの招待状

第1章 幻都

 ─会計を済ませた女性は、急ぎ足で正面のドアに向かった。
 「よかったら、上でお茶飲みましょう。おれ休憩なんです」「せっかくだけど、これから病院なんだ…」「お見舞いですか」頷くと、手近な棚から薄い本を1冊出し、「お見舞いに、お持ちください」海辺の写真の表紙。World Seaの紺文字のタイトル。「これも夢あって、退屈しませんよ」宇宙空間のイラスト集。



 「ユノさま」…指定の時刻には、まだ早い。「3時には、間がありますね─キム侍従」「お待ちしておりました」特別室に通される。
 「お嬢さまはご不在です。お戻りは夕方でございます」ティー・ポットから、熱い紅茶を注いだ。「彼は…どうですか」病室の手前の窓には、白く薄い花嫁のベールを思わすカーテンが下りていた。
 「お変わりなく、おやすみでございます。─昨日、ご友人のチェ・シウォンさまにお話致しましたが、改めてユノさまにもお話申し上げます」「─はい」「チャンミンさんの治療ですが、脳のなかの血の塊を出すドレーンを入れるそうです」「血? ドレーン…」「事故から今日までのご安静中に、脳に吸収されず塊になった血液を、ドレーンで取り出すのです」

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