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狼からの招待状

第7章 ブルー・クリスマス

 そこで口を閉じ、黒い大きなデスクにリサは近寄る。
 クリームいろのブラウスが、濃い色合いの皮膚を引き立てるチノ教授…黒真珠の輝きの瞳を、リサの紺のブレザーの後ろ姿に当てた。
 「マダムは、絞められた首が、苦しく…でも」 デスクの片隅の蛇腹のファイルを捲り、「ひっくり返った洗面器─水差し…」思案顔を俯け、考え込むリサ。黙ってチノ教授は、テニスシューズの脚を組み変える。
 「マダムは、死にきれなくて…」リサはそこで、かぶりを振った。
 …「子守唄のジャン。彼のやさしさ。純粋さが─」「罪深いマダム。遺体も引き取って貰えない、哀しい人ではあるけど…ね」───────
 「そうだ、マダムの遺体は」「クリスマス休暇明けの解剖実習。ご献体いただいた」「ご遺族は」「了承済み。今、マダムは院内のチャペルの納骨堂よ」「納骨堂?」「まだ若い、新ご夫人に気兼ねしたのでしょう」「週刊誌で見ました。挙式の写真…マダムのも載ってた」……………………
 …「身勝手なご亭主…冷たさに腹が立ちます、ご夫婦なのに─わかりません」「金持ちは異常な存在よ」高身長のジャーナリストと同じく、呟き声のチノ教授。

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