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狼からの招待状

第7章 ブルー・クリスマス

ふたりきりの特別病室…、ゆるやかな歌声…
 特別室の窓から見える、どんよりした冬の空──
 


 新装オープンの劇場から、夜の街に歩む。
 ミュージカルの看板のネオンが、路上を明るく照らす。
 「タクシー、拾おうか」コートの衿のシルクのスカーフをなおしながら、「平気よ。今夜は暖かい。ホテルまで…歩く」ハイヒールが、優雅に劇場の脇のレストラン通りをゆく。
 「グレ」背中まである細かなウェーブの髪を軽く揺すり、「おやすみのキス…、頂戴」ルージュの唇を尖らせる。
 ……「なぜ─」笑ってコートのポケットから、震えるスマホを出した。  「マナー・モード。劇場出たところで…忙しいひとだ」「判事なんていっそ辞めようかしら」「せっかくの猛勉強が、無駄になる」「そう? タクシー停めて…」─オレンジの街灯に、黒い車体が染まるタクシーに乗り込む。
 …グレは車のドアが閉まる直前まで、ワイン色の手袋の、華奢な指を包むように触れていた。



 「春が待ち遠しいですね」薄いピンクがかった発泡酒を注ぎながら、云うフライに、「チャンミンさんの回復ぶりに、驚きました」グレが、カウンターのユノの隣に掛けて相槌をうつ。
 

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