
狼からの招待状
第1章 幻都
見上げると、以前ジンフィズを作ってくれた長い髪の青年が、胸元で細い鎖の光を揺らめかせながら、階段を下りてくる。
「グレ」…呼びかけるのは、フライの声。いつの間か扉のまえにいて…… 薄暗がりのなか、顎を少し動かす仕草の挨拶を、青年がユノにした。
─脇を通る彼は、濃厚な香りをさせている…スタジオの廊下を、人々に取り巻かれながら昂然と顔を上げ、古代神国の女帝のようにゆく、大女優とすれ違うときの香りだった。
「お前、店は─」「同伴出勤失敗」「え…?」「マダムに、逃げられた」心配顔のフライを、くすりとグレは笑う。
階段を登りかけながら、二人を振り返って見ていたユノは、つられたようにフライの口元も笑みのかたちになるのを見て、足早に地上に出た。
─マリーゴールドのような双眸が、霧の闇夜のなかを貫いてやって来る。車のヘッドライト─黒い豹のシルエットが、遠く、夜に溶け込んだ── (あのふたり…)「グレ」と呼ぶ想いの籠った、声。長い髪の青年の応える…声(教会のイコン。見惚れて─)薄いベージュのコートのポケットから、スマホの呼び出し音。(シウォンだ)「あ…」(ユノ、会おう。今、病院だ)
「グレ」…呼びかけるのは、フライの声。いつの間か扉のまえにいて…… 薄暗がりのなか、顎を少し動かす仕草の挨拶を、青年がユノにした。
─脇を通る彼は、濃厚な香りをさせている…スタジオの廊下を、人々に取り巻かれながら昂然と顔を上げ、古代神国の女帝のようにゆく、大女優とすれ違うときの香りだった。
「お前、店は─」「同伴出勤失敗」「え…?」「マダムに、逃げられた」心配顔のフライを、くすりとグレは笑う。
階段を登りかけながら、二人を振り返って見ていたユノは、つられたようにフライの口元も笑みのかたちになるのを見て、足早に地上に出た。
─マリーゴールドのような双眸が、霧の闇夜のなかを貫いてやって来る。車のヘッドライト─黒い豹のシルエットが、遠く、夜に溶け込んだ── (あのふたり…)「グレ」と呼ぶ想いの籠った、声。長い髪の青年の応える…声(教会のイコン。見惚れて─)薄いベージュのコートのポケットから、スマホの呼び出し音。(シウォンだ)「あ…」(ユノ、会おう。今、病院だ)
