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狼からの招待状

第1章 幻都

口を挟んだフライに、「どうした」カウンターから離れた小テーブルの前に座った。
 熱い湯気の立つザワー・クラフトと、黒い缶のビールをフライが並べながら、「弟どもが、失礼をしたんです」「…この間も揉め事したろ…」「不甲斐ないです」出された細めなグラスを断り、「こいつのお詫びの分も、呑んでください。営業中だけど─一杯頂きます」黒いビールに口をつける。



 「ところで、ソンニン(お客さま)。ユノさん、でしょう─」ビールの軽い食事の後、改めてカウンターに立ったマスターが、「初めてお見えの時は、暗がりで…お顔が判りませんで、失礼しました」「こちらも内輪話してて…、気がつきませんでした」
 口ひげの顔に、レンガ色のシャツのマスターはフライに頷き、「ご無礼しました。こちらへはお仕事ですか」「プライベート…で」「ご旅行ですね」笑顔になり、ワインボトルを並べる…その手の動かしに、貴族の身ごなしがある。
 「チャン…ミンが、入院して、こっちで」氷を割ろうとしていたフライが、「入院?」「婚約者と事故で─」「もしかして、車の…海岸の方で」手を止めたマスターにユノは小さく頷き、「そうです」……

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