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狼からの招待状

第1章 幻都

カクテル・グラスを冷やそうと動いた青年の左手首で、腕環が黄金に光った。



 ……ホテルに霧のなか戻り…ベットメイクされたカバーに寝転び、そのまま眠りこむ。夜の明けきらないうちに、コール音に、起こされた─国際電話、レラからだった。  『そっち夜中だろ? 起こしたか』「兄さん。目…覚めましたから」『チャンミン、どうだ』「昨日─見舞って、まだ眠ってる状態…」─ため息を吐く音のあと、『家族が、そっちに行けないんだ』「え…」『おばさんが倒れて、おじさんが看てる。妹たちは子供のことがある、遠くは無理だ』「おばさん、どうしたんです」『持病の発作だそうだ。安静中だ』ユノはスマホを持ち直し、「僕が、チャンミンを見ます」「そうしてくれ。おれは彼女の母親に招ばれて…当分は京都だ」「そうですか─また僕から、連絡入れます」「良い知らせにしてくれよ…頼む」 閉め忘れた厚い布地のカーテン、その向こうに街灯のあかるさを受けた霧の粒が、窓硝子に、滲んだ。



 車のハンドルを切り、鈍色のレンタカーを浜辺に停めた。海岸の岩は白いしぶきに濡れている。どんより曇り、時おり吹く潮風が、冷たい。

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