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狼からの招待状

第1章 幻都

 通りを抜けた、ごみごみした一角に、白い十字架が目立つ建物があった。なかは広く、誰もいないようだった。
(あの子はいったい…) 前方に人の気配がして顔を上げると、眼鏡をキラリとさせた神父らしい老人が、こちらを睨むようにしていた。
 挨拶に立とうとすると、白っぽい上衣をつけた、痩せたのっぽの少年が奥から出てきて、老神父に手招きされ、聖壇に近寄る。
 やがて、壁に沿った長椅子の端のユノの前に来ると、黙って木製の色濃い箱を突き出す。
 コートから、数枚の札を取り、箱に入れる。少年は口のはたに皺を寄せて、ひん曲げ、正面の十字架の下に戻っていった。老神父の姿はない。少年の背中が、奥に見えなくなると、無人の教会のなかに漂う匂い…(あの子の匂いと、同じだ)…蝋の燃え尽きる、匂いだった。



 ─階段を降り、朱いドアを開けきらないうちに、「オソゥセヨ(いらっしゃいませ)」声が掛かり、カウンター前を磨いていた青年がこちらを見た。「まだ…準備中?」「いえ─どうぞ」店にいるのは青年ひとりだった。

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