
Melty Life
第5章 本音
ベッドスカートに背を預けた水和に腕を引かれたあかりの身体が、彼女の胸に収まる。シャンプーかオードトワレか、この香りが鼻を掠めると、二月のあの日、階段から足を滑らせた彼女を受け止めたのを思い出す。
豪奢なワンピースにくるまれた身体は、あの日と同じくらい儚い。抱擁に抱擁で返さなければ、せっかくくっついていられる時間まで霞んでいってしまうのではと怖くなる。
あかりは水和のおとがいに指をかけて、指の腹がじんとするほど滑らかな肌を僅かに撫でて、キスを施す。シフォンのワンピースのフリルを踏まないかと気にしていると、水和がスカートを寄せてあかりが膝を下ろせるだけの間をとった。
初恋らしい、唇で唇を撫で合うキスが、水音を伴う啄みに変わる。こうも幸福で良いのか、と、頭の片隅を掠める余念も遠ざかる。
水和があかりを求めてくる息差しに導かれるようにして、赤みをまとった多肉植物のような舌に舌を絡めつけて、アールグレイが仄かに染みた口蓋の皮膜の無味を味わう。白い珊瑚を聯想する歯列を愛でて、唇のたわみを確かめる。水和に伝っていった唾液の代わりに、彼女のそれを啜り上げる。キスとキスの隙間にこぼれる息の中に、焦がれてやまない名前をささめく。
「ん、はぁ……」
「水和先輩……もっと、見せて下さい……」
組み繋いだ水和の片手を指先に撫でて、あかりはマーガレットとリボンの散布するワンピースの後ろ身頃に空いた片手を伸ばして、うなじ近くのホックを外す。シフォンを爪に引っかけないよう注意を払って、ゆっくり、ゆっくりファスナーを下ろしていく。
ワンピースから丸い肩を覗かせた水和は、まるで綺麗な包装が解かれたばかりの人形だ。深海の色彩をまとった髪は艶やかな波を描いて、睫毛の影の下に伏せた大きな目は、羞恥に濡れてもあどけなく煌めく。生身の肌にしかありえない、微かなうぶ毛や皮膚のむらが、彼女を生きた少女なのだと証していた。溢れる生気に劣情が騒ぐ。
