
Melty Life
第5章 本音
五月にここを訪ねた時は、夢でも見ている心地に浮かされていた。水和と無邪気な放課後を過ごして、彼女の笑顔にあかりは何もかも忘れて、二人だけが同じ時間の中にいた。
世界中の幸福に包まれた気分に満たされていた。
例えようもなくあかりは彼女が好きで、ずっと一緒にいたいと心底願った。願うどころではない、そうならなければいけない、そうなるのだと、自分の未来を確信していた。
水和の隣にいるべきなのは、来須ではなく竹邑でもない。自分以外に認めたくなかった。
気持ちは今でも変わらない。
水和のためになりたい。久し振りに彼女の顔を間近に見て、名前を呼ばれて、同じ空気を吸って分かった。
あかりには何もない。何もないところに、水和だけがいる。
「絶対何とかします」
「有り難う。あかりちゃんに迷惑はかけられない。どうするか早く決めないとね、私が」
「いいえ。来須先輩と、何とかします。……今はあまり会いたくありませんでしたけど、水和先輩がこのままの方が、あたしにはもっと苦しい」
「来須くん、あかりちゃんに何か言った?」
「…………」
来須に非はない。
あかりより、彼が目の前の問題にちゃんと向き合っていた。何からも逃げないで目を逸らさない、こればかりはきっと来須が正しい。あかりの弱さが、血を分けた男を拒絶したがっているだけで。
先週、知香の家に泊まった。あかりは知香が自分を好きだろうと、薄々、予感していた。あの夜、予感は確信に変わっていた。
あかりが悲観するほど、知香は自分を責めた。あれこれ考えるのをやめたのは、あかりが思い詰めた分、知香がもっと傷つく気がしたからだ。まるで鏡でも見ているようだった。
無防備で懐っこい知香は、あかりが手を握る以上の接触を望んでいれば、きっと受け入れてくれた。しかしあのあと、胸が迫るほど柔らかな彼女の手を握って布団に入って、とりとめない話を交わしている内に、眠りに就いた。
穏やかな関係を変えたくなかった。
春先に決意した水和に対する誠心誠意を、心のどこかが、まだ手放したくないと叫んでいたのもあるかも知れない。
