
Melty Life
第5章 本音
百伊からのLINEを既読もつけないで置いていたら、眞雪とのんびり雑談しながら下校の支度をしていたあかりを、本人が待ち伏せていた。
運動部なら平均にいる長身で、それでいて運動部よりしなやかな身体つきの上級生は、臈たけた、と表現するのが相応しい顔かたちや姿勢の良さ、立ち方ひとつにしても洗練された感じがあってか、ホームルーム直後の出入りが盛んな二年生の教室の出入り口にいても、自然と存在感がある。
一部の女子らは、とろけた目をして遠目に百伊を眺めたり、好意を伝えに駆け寄ったり、演劇部のエースの来訪に興奮している。
そんな彼女らに、百伊は絵本の中の皇子のごとく柔らかな微笑みを添えて礼を返すと、用件を切り出したのだ。宮瀬さん、いる?と。
様々な憶測を交わして議論する黄色い歓声が遠ざかっていくのを背後に、あかりは百伊のあとに従って、二年生の廊下を抜ける。
「あれだけLINEしてたのに。未読無視は良い度胸だよ」
「文頭だけ見えました。水和先輩の件は、ごめんなさい」
「どうにも出来ないから?」
新入生歓迎会のあと、水和との写真を送るために、百伊と連絡先を交換していた。百伊のスマートフォンに未だIDが残っていたのも驚いたし、こんな用件でLINEが届くとも思わなかった。
校舎を出て少し歩くと、用務員室がある。生徒の掃除当番の管轄外で人目を避けるには適したその裏口に、今日は先客がいた。
あかり達を待っていたのは、山下だ。山下の用件も、百伊とほぼ同様だ。理事の孫息子である来須を説得したい、貴女からもどうにか言ってもらえるか。
彼女達は、あかりと来須の関係を知らない。今、あかりが彼と気まずいことも。
あかりが答えあぐねていると、更に山下が口を開いた。
