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Melty Life

第5章 本音



 最近、水和は同級の中で浮いていた昔を忘れていた。

 咲穂のようなタイプにとって、水和は迫害の対象だった。私服で登校していた小学生時分は、心ない言葉も聞き慣れていた。

 中学に上がってからだ。

 ゆめかわいいものが好きだと懲りず表明していても、新たに出逢った友人達は、ポジティブに水和を評価してくれた。
 休日に仲間内で出かけた先で、通りすがりの男が軟派なちょっかいをかけてきた時は、百伊達は本気で追い払ってくれたし、春に竹邑と植物園へ出かけた時も、あの見た目の彼が暴れないか見張りに伴うと言い出した彼女達を、水和は慌てて宥めたものだ。

 大切にされている実感が持てる友人達に、初めて出逢った。


 誰の前でも自然に明るく振る舞える、世渡りの上手い同世代の子を、羨みはしても憧れなかった。

 流行りに合わせて装いを変えて、需要性の高い話題を振れるスキルを身につけるより、リボンやフリルやレースを好んで、芝居をしたり絵画を観たり、好きなものを好きだと認めて、本能だけときめかせていたい。
 そのための努力はした。幼少期、周囲の言葉は、さんざん自己評価の面で水和の足を引っ張っていた。そんな無責任な雑音に、自分自身の希望が妨げられてはもったいないと我に返ったのは、どうしても向いているとは言い難い演劇がしたくてたまらなくなった六年前だ。自分という存在はたった一人だ。自分に向ける理想を叶えるのは周囲ではない、自分自身だ。
 この役を演じるためには、こうした表情、こうした声に、近づけていけば良いだけのこと。あの洋服を肌に馴染ませるには、髪は今より艶を出した方が良いし、化粧は目許が甘ったるくなる顔つきになるよう研究していく。
 初めから思い通りの芝居が出来る人間はいないし、身嗜みも気にしないで、理想の容姿に近づけた人間もいない。それが水和の至った持論だ。小学生の頃、ロリィタファッションを貶されたのは、きっと水和が子供らしい怠惰をしていたから。

 理想とは遠かった自分自身に抗って、結果、自分を信じられるようになった。

 芝居もファッションも、他人からすれば、自己顕示欲を満たす手段に見えることもあるかも知れない。
 少なくとも水和は違うと思う。芝居を好きな人間は、目立ちたがり屋が少ない。過剰装飾的な身なりを好む女子ほど、他人の好意を求めていない。

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