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Melty Life

第5章 本音


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 朝、出かける直前、何年振りかに身体が鉛のように重たくなった。

 ここ六年ほどは少しくらい体調が優れなくても学校へ向かっていた水和が、熱もないのに久し振りに不調を訴えたところで、両親は何も咎めなかった。
 もとより咲穂に家族ぐるみでの謝罪を教師に強要されて以来、二人とも、いつでも休んで構わないと繰り返していた。父親も母親も表面上は頭を下げていただけで、咲穂にも教師達にも憤慨していた。


 それでも水和は、教師達の詰問に参っているとは、口に出来ない。

 言葉にしてしまえば、このまま惰性で引きこもって出られなくなる。



 何故あの時、一年生の部員のいる教室へ、一人で訪ねていったのか。

 過去の修復は不可能なのに、悔いてしまう。咲穂と関わらなければ、今頃、変わらなく学校生活を続けていたのだ。こうも他人の欺瞞や冷酷な面に触れたのは、小学生以来じゃないか。



 あかりの妹だというあの下級生は、水和が一度は羨んだものを持っている。

 どこへ出ても物怖じしない、生まれながらに明るい気性。万人が彼女を信頼して、快活な人懐っこさが、いっそう人を引き寄せる。生来の自信が放つ引力は、その容姿にも反映する。学校の制服には少し浮く厚い化粧も垢抜けて見えるし、長い髪はきっと毎朝、丹念にアイロンして整えているのだ。

 彼女の行動、言動が、周囲にとって正当になる。憧れになる。

 水和の同級にもああいうタイプは常にいるから、尚更、分かる。息をするように上手く立ち振る舞える咲穂のような類の子は、教師達も一目置く。

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