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Melty Life

第5章 本音




「悪い、この件には関われねぇわ」

「へ…………?」


 聞き違いかと思った。

 千里は、自分かゆうやかが相手の言葉を聞き違いでもしたのかと、疑う。今しがた自分の話は正確だったか。ゆうやの否定が、他の問題に対する意思表示ではないのか。

 ほぼ手をつけていない弁当を広げたテーブルに、僅かに前のめりになって、今度こそ自分の一字一句を確認しながら、千里はゆうやに再三問う。


「ああ、お前には協力出来ねぇ。花崎さんにも悪いな」

「彼女を好きなら」

「相応しいのはお前だって、言ったよな」

「大事なのは、花崎さんとゆうやの気持ちだ」

「高三だぞ。そろそろ進学のことを考えないといけねぇんだ。俺らみてぇな一般庶民は、ややこしいゴタゴタに関わって、内申書に響いたら、受験の命取りになる。俺は自力で大学へ行く。お前と違って、何かあったら助けてくれる親もいねぇ」

「…………本当に、ゆうやはそうなのか?」

「クズみてぇな生活は終わりにしたいんだ。俺みたいなヤツは学歴だけでもまともにしなきゃ、あっという間に親父みてぇになる。人間、自分が可愛いんだよ。苦労も知らねぇお前には、一生分からねぇだろうな。すまない、俺のことは俺に決めさせてくれ」

「…………」



 厨房から出てきた従業員達が、空席になったテーブルの清掃に入っていた。昼食を終えた生徒達はどこか別の羽を伸ばせる場所へ移ったのだ。

 千里も弁当に手をつける。手の込んだ惣菜の数々は、鈴木が手間暇かけたものだが、今日は味覚が鈍っている。美味い、という感動を覚える神経が、麻痺している。ゆうやも、もう夏季限定メニューにはしゃぐ子供の目をしなかった。

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