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Melty Life

第5章 本音


 知香はこじんまりした寝台の下に布団を二人分敷いた。きっと譲り合って互いに一歩も引かないだろうし、気を遣わなくて済むよう二人ともここで寝よう。そう提案して。


「私の言葉なんか、あかり先輩にしてみたら、些細なものかも知れません。それでも私は先輩に出逢えたから、毎日が楽しくなりました」

「うん、……でも」


 知香も大切な後輩だ。それでも水和が追い込まれたのは、どう考え直しても、あかりが一因していた。
 教師達が咲穂の言い分を通したがるのは、淡海ヶ藤の理事である来須隼生が、嫡男の起こした問題から、宮瀬に逆らえないからだ。きっと今もあかりの育ての両親は、学校側が咲穂の虚言を認めれば、十七年前の来須のスキャンダルを世間に公表するつもりでいる。そればかりか、咲穂を裏口入学させた不正も漏洩させようとしているかも知れない。咲穂を愛する彼らの機嫌次第で、来須の社会的な信頼は暴落する。来須が体裁を守るためには、高校三年生という進学にも関わる時期に、水和が生贄になるしかない。


「知香ちゃんにあんなことしていたグループの主犯だって、咲穂だったんでしょ。あたしに感じる恩はないよ」

「それは……、聞いた時は驚きました。偶然、苗字が同じだけなんだと思っていましたから。でもあかり先輩は関係ありません。先輩だって知らなかったんでしょ」

「妹とは、学校の話とかしないから。ごめんね、あたしから何か言っても、話にもならないと思う」

「良いんです。あんな目に遭っていたお陰で、あかり先輩に出逢えました」


 首を横に振るだけの動作が、しおらしく謙虚で知香らしい。水和ではなく、知香との出逢いの方が早ければ、あかりは今頃、全く別の日々の中にいたのだろうか。

 水和に出逢えなかった人生など、考えられない。水和を救えない自分など、必要ない。知香がどれだけ肯定してくれても、あかりが多くの不幸を招いた事実は変わらない。

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