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Melty Life

第5章 本音




「そんなに頼りなくないから、大丈夫だよ」

「もちろんです。あかり先輩はお友達だってたくさんいるし、私なんかと違って人好きする素敵な人です」

「そんな人間だったら、とっくに知香ちゃんを頼ってたかな」

「…………」

「誰にでも愛されて、何でも話せる、私が周りにいる人達を信頼して、信頼されるだけの行動をしてきたようなヤツだったら、こんなに大事に想ってくれてる知香ちゃんの言葉を受け流したりしてないよ」


 知香があかりを見る目には、あかりを呼ぶ声音には、覚えがあった。水和に告白した以前、うわべだけの好意を交わして、恋人と呼び合う約束を提案されてもはぐらかして、その場限りの充足を共有していた少女達にそっくりだ。

 柔和で優しい、綺麗な水と空気だけを吸って育ってきたような少女が好きだ。常に年齢にしてはませていた咲穂とは正反対のタイプを好むのは、あかりの深層心理が、きっと安らぎを求めるからだ。
 知香をいじめの現場から連れ出したのも、きっと彼女の見た目が好みだったから。見た目だけは嘘をつかない。そうでなければ面倒ごとに自ら首は突っ込まないし、あの日、水和とのツーショットで舞い上がっていなければ、咲穂に口説き文句の一つもかけていたかも知れない。

 誰にも頼らないで生きていく。そうは言っても、一人にはなりたくなかった。

 他人の甘い部分だけ啜っていたい。関わる相手にも、相手にとって都合の良いところだけ見せていたかった。水和に対しても、あかりはあれだけ救われたのに、結局、果ての見えない暗闇の中、ぼんやりと見えた光に焦がれた自分に酔っていた。誰かを想い慕うだけで、何か変わるはずがない。他人に期待したところで、どう救われる?


 眞雪の帰っていった方角に向かって足をとめる。

 五分前、躊躇いがちに手を振った親友の背中はもう見えない。あかりに合わせて立ち止まった咲穂だけが、街灯の光に浮かんでいる。

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