
Melty Life
第5章 本音
眞雪の食いつかんばかりの眼光に、来須は目に見えてたじろぐ。一度は固まった決意が揺らぎでもした、今まで円滑に話していたのが別人に見えるほど、心なしか目まで泳いでいる。
実際はそれほど経っていないにしても、感覚としては長い長い間、初夏の風が木々をくすぐる幻聴だけが、沈黙を慰めていた。
「宮瀬さんは、ご親戚に、───って人はいる?」
「その苗字の人は結構います。会ったことはありませんけど」
「……本当だったのか」
「来須先輩。昼休み終わっちゃいます、早くして下さい」
常に消極的な物腰を崩さない知香にしては珍しい、しびれの切らせようだ。それだけ千里がまどろっこしいのだ。
何故、あかりの親族の苗字を確かめたのか。来須がそんなことを知って、何になるのか。
ややあって、来須はそれらの種を明かした。
来須自身も、先週末、祖父から聞いたばかりらしい。
淡海ヶ藤の今年度の新入生には、理事や校長でさえ、蔑ろに出来ない生徒がいる。正確には、その生徒の保護者達に逆らえないのだ。
十七年前、来須の父親は彼の経営する会社の内部で、社員の一人を身篭らせた。スキャンダルを真っ先に恐れた父親は、実の娘の親権の一切を不義の女に丸投げした。雇い主に半ば脅迫めいた方法で関係を迫られた当の女の遠縁に当たる宮瀬の家は、折目正しい教育の下に躾けられてきた彼女の将来を憐れんで、新婚早々、私生児の里親を名乗り出た。来栖の父親に口止め料を要請し、今後必要があった時には相談に乗る約束を取りつけて。
