
Melty Life
第5章 本音
「殴り込みに行くか」
七限目からのホームルームが終わったあと、掃除当番の生徒らが忙しなく動き回る中、千里はゆうやと校舎裏で落ち合った。水和の一件は彼の耳にも入っていて、開口一番、相変わらず学生らしからぬ奇抜な装飾が端麗な顔立ちを台なしにしてさえいる友人は、怒気を含んで吐き捨てた。
「先生に言っても仕方ないよ。笹川さんみたいなこと言うんだから。それより、現場にいたのがあの子の友達だけだったっていうのがな……」
「運の悪いヤツだぜ。おい、俺は先生に言うんじゃねぇぞ。咲穂ってアマに殴り込みに行くんだぜ」
「やめなよ。大体、お前、喧嘩は得意じゃないだろう」
今にも一年生の校舎へ突進しかねないゆうやを抑えて、こめかみに青筋を立てた友人を、校門へ引きずっていく。
帰るのか、と、がなりたてるゆうやに、千里は頷くしか出来ない。
ホームルームで、また水和は呼び出しを受けていた。用件は、おそらく事件の確認だ。同日に二度も同じ弁明を強要される水和の胸中を思うと、部外者の千里でもうんざりする。
水和は被害者だ。春に流れたあかりの噂も出どころは咲穂のグループだったところからして、水和も彼女らに陥れられたのだ。生徒らは千里を巡っての女の抗争だと噂しているが、千里には咲穂との接点がない。ついでに、悲しくも、水和が誰かと自分を巡って争うほど、執着してくれている気もしない。週末は彼女に心配されて、少し幸せな心地は味わったものの、調子に乗ったせいで今朝はあっさりあしらわれた。
隼生に相談するべきか。
水和を守ると約束してくれた祖父。しかし千里の善良な祖父は、宮瀬の家に引け目がある。関わっているのが咲穂と聞いても、力を貸してくれるのか。
