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Melty Life

第5章 本音


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 水和が咲穂を捻挫させたという騒動は、瞬く間に知れ渡った。現場に居合わせていた生徒らに言わせると、階段から突き落としたというのが正しいようだが、三、四段、足を滑らせて、酷い怪我もなかったのだから、千里からすればそれは誇張に聞こえる。

 教室に戻った水和は、普段と変わらない様子だ。いや、百伊達と談笑しながら、どことなく疲弊した顔色を誤魔化しているように見えるのは、空元気を装っているからか。
 プリントを届けるだけだったにしては戻るのが遅かったじゃないか。そう言って水和を心配した友人達に、ことの終始を包み隠さず話していた彼女は、咲穂とのトラブルをそこまで重大に捉えていないようにも見える。

 見ず知らずの下級生の転落について、正直、心当たりはない。しかし生徒指導部室での詰問が、記憶の確信を疑わされるほどには峻烈だった。咲穂のとりまき達の証言もあって、彼女を擁護したがる教師らの言葉を聞く内に、もしかすれば無意識の内に本当に過失があったのかも知れないと自分を疑う。

 そう話す水和に、友人達は目くじらを立てていた。百伊に至っては、水和を呼び出した教師の名前を聞き出して、教員室へ殴り込みに行く勢いだ。

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