
Melty Life
第5章 本音
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物理の担当教員から受け取ったプリントの冊子を手提げから覗かせて歩いていると、一年生の教棟から見慣れた人影が飛び出してきた。人影はあかりに気づくなり、まだこの辺りに薄紅色の花びらが舞っていた、ほんの一ヶ月と少し前からすれば信じられない眩しい笑顔で手を振った。
それから小走りで駆け寄ってきてあかりの隣に立ち並んだ知香は、うっかり抱き寄せたい衝動に駆られそうなほど、単純に可愛かった。
衝動に従ったところで別に誰も悲しまないし、あかりを非難したりしない。そんな思いが頭を掠めていったのが、虚しい。水和に誠実でありたいなどと、初めから寝言だったんじゃないか。
「ごめんなさい、遅れちゃって」
「ううん。私も今行くとこだったから。急がせちゃったね」
「いいえ。珍しいですね、眞雪先輩と一緒じゃないなんて」
「場所、とってもらってるんだ。日陰、人気あるからすぐ埋まっちゃうでしょ」
四限目の関係で遅れることがあれば、知香は事前に知らせてくる。それが稀に今日のような例外があると、良くない推測があかりに囁きかけてくる。心ない同級生が、また彼女にちょっかいをかけたのではないか。笑顔の裏に、言い知れない暗闇を押し隠しているのではないか。
あかりだって、第三者……眞雪や小野田に言わせてみれば放っておけない状況下に置かれることがあるのに、自分の件は棚に上げても、知香は同級生らに受けていた横暴に対処すべきだと思う。いじめ現場に通りすがったのはあれが初めてではなかったのに、ともすれば知香を連れ出したあの時、彼女に何かしら感じるものがあったのかも知れない。
