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Melty Life

第5章 本音



 恋煩いなど、出来るものならしてみたい。これだけ思い通りの日々にいて、咲穂は好意を寄せられるだけの値打ちのある男に会ったことがない。

 入学当初、それなりに人気があるという生徒代表の来須に興味を惹かれたことがあったくらいで、今となってはただの黒い歴史だ。

 大したことのない男は大したことのない女に引き寄せられる。今朝も昇降口で、水和に冷たくあしらわれていた。


 そんな咲穂が、意中の相手を想っていると本人に遭遇した……というようなロマンチックなシーンを体験出来るはずもなく、化粧直しのために手洗い場へ行くと、そこにいたのは髪の襟足をブルーグレーに染めた、いかにも同性受けのしなさそうな顔かたちの上級生だった。
 制服は模範的に着こなして、メイクは見たところ校則範囲内の最低限。大人達に咎められないよう、安全圏で自分のアイデンティティを主張している、こんな女が最も鼻につく。オープンキャンパスや新入生歓迎会で、演劇部の舞台に出ていたところからして、根っからの引っ込み思案ではないのだろうが、陰気な人間は陰気らしく、日陰でこそこそ生きれば良いのだ。知香は問題外として、あかりや水和のような人間に、誰かを味方につけるだけの権利はない。

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