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Melty Life

第5章 本音


* * * * * * *

 自分に愛されるだけの器量はあるか、周囲が期待を寄せているだけのものは、身についているか。 

 幼い頃、そんな懐疑はいだかなかった。

 父も母も咲穂に優しく、欲しいものはねだって当たり前、当然、与えられてきた。同世代の友人達が親との意見の食い違いからいわゆる反抗期と呼ばれる年頃を迎えても、咲穂には、今もそうした軋轢は考えられない。学校でもそれは同じで、友人達は咲穂の見た目に憧憬し、持ち物にも抜かりない垢抜けた咲穂と連めることを誇りにした。

 何不自由ない。もちろん咲穂も最低限の努力は欠かなかったものの、少し評判の良い美容師を探すとか、私服を新調する時は慎重になるとか、その程度のことである。


 光差すところに影もある。

 咲穂の身近には、親の厭忌に育っていった姉がいる。年頃の少女らの加虐心をいたずらにくすぐる、芋くさい同級生がいる。
 あかりや知香を見ていると、自分の置かれた局面を打開しようという努力をしない、もっぱら地を這うだけの有り様に吐き気さえ覚えるが、同時に彼女達の存在は、自分の境遇が決して世の中の当たり前でないのだと咲穂に知らしめる。
 怖くなる。自分はいつまで愛されるのか、運ではなく、愛されるだけの器量が本当にあったのか。…………



「はい」

「ん」

「なぁにぃ、その目。侑目沢、最近生意気なんじゃね?リップクリームなんか塗っちゃってさ」

「うっわーダサ子がヘアアレンジとかマジダサ!キモいからやめなって」


 いつもと変わらない昼休み、咲穂と机を合わせたありさ達が、知香からパンやジュースの入った袋をひったくるなり、彼女に罵倒を浴びせ始めた。周囲は、クラスメイト一人の暗い顔など興味も示さないし同情も寄せない。
 日射しが強くなってきた最近は、外へ出る気も起きず、たまに知香に彼女の金で買い出しへ行かせる他には、善良で従順なクラスメイト達の手前、ありさ達も目立って彼女を虐待しなくなっている。知香の方も昼ご飯代の返還を諦めていて、気がつく頃には教室からいなくなっていることがほとんどだ。

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