
Melty Life
第5章 本音
「どいて下さ──……っ、つ」
しつこく立ちはだかる来須を無理矢理かわそうとしたあかりの身体が、よろめいた。来須の腕が、受けとめる。
「大丈夫?」
「しつこいなら人を呼びます」
「これ……」
ようやっとあかりから離れる気配を見せた来須の顔色が変わった。梅雨入り前の空の色が反映でもしたように、少年にしては白い顔がいっそう白さを強めている。
瞠目した彼の視線が捉えたのは、紺色チェックのセーラーカラーブラウスの袖に覗いたあかりの手首だ。
「っ……」
僅かに捲れ上がった袖を整えて、逃げ道を探す。
生徒か教師でも通りかかれば、しつこい上級生をあしらえるのに。
「その傷、どうしたんだ」
「関係ないでしょ」
「縄……?怪我じゃないよな?」
「思い出だって言っても、そんな風に心配するんですか」
語弊はない、思い出だ。再会した小野田と一夜を過ごした時の、彼女があかりに刻んだ残痕。
小野田が粗目の拘束具を使ったのは、きっとわざとだ。父親の感触が拭えないと言って震えていたあかりに、彼女自身を上塗りするため。
男の傲慢が及ぼしたものでなければ、どこについたどんな傷でも愛おしい。水和のくれたものでなくても、痛みという感覚こそ鈍っていても、快楽と共に得たそれは、甘い余韻を染み広げていくのが分かる。手首に這った瑕疵が薄れるまでの間は多分、あかりは自分を肯定してくれた女がいることを思い出せる。
気持ち悪い、と、今度こそありったけの拒絶をぶつけて、あかりは来須を振りきった。
