
美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜
第16章 何度でも、君に恋をする
……ごめんなさい……忘れました。
そんな事言えない私は、何とか誤魔化そうと必死で笑顔を作る。
そんな私の口元がピクリと痙攣《ひきつ》った時、目の前にいるひぃくんがニッコリと微笑んで口を開いた。
「高校卒業したら結婚するって約束したでしょ? 」
そう言って私に婚姻届を渡したひぃくん。
しかも、ちゃっかりとボールペン付きだ。
「えっ……? 」
婚姻届を見つめて固まる私を見たひぃくんは、ニコッと笑うと私の腕を掴んで椅子へと座らせる。
そして、私の右手にボールペンを握らせたひぃくんは、「はい、ここに名前書くんだよー」と言ってフニャッと嬉しそうに微笑んだ。
ーーー!?
「……っえ!? ちょっ、ちょっと待ってひぃくん! 私そんな約束してないよっ!? 」
椅子に座ったまま軽く飛び跳ねた私は、隣にいるひぃくんを見つめて目を見開いた。
私はそんな約束をした覚えはない。
一体いつ、そんな約束をしたというのか……。
私の視界に映るひぃくんは、私の発言に一瞬驚いた顔を見せると、途端にその顔を曇らせて悲しそうな表情になる。
「高校卒業したらいいって言ったのに……」
「 いっ、言ってないよっ! 私、そんな事言ってないっ! 」
「酷いよ花音っ! 忘れちゃったの?! 期末テストの勉強見てあげた時っ……約束したのにっ! 」
大きな声でそう言ったひぃくんは、ついにボロボロと涙を流すと泣き出してしまった。
え……? あの時の事を言っているの?
目の前でメソメソと泣くひぃくんを見つめながら、私は一人、あの日の会話を思い出してみる。
私……卒業したら結婚するなんて……言ってないよ……?
卒業するまで結婚の話はしないでね、って話しだったはず。
そもそも、ひぃくんが卒業するまでではなく、私が卒業するまでという意味だ。
ひぃくんが卒業したところで、私が高校生である事には変わりはないのだから……それでは何の意味もない。
あの時、妙に聞き分けの良かったひぃくんを思い出す。
実際、あれから一度も結婚を迫ってくる事のなかったひぃくん。
それもそのはずだ。
数ヶ月後にはひぃくんは無事、卒業するのだから……。
