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Happiness day

第28章 Crasy Moon ~キミ•ハ•ムテキ~

「えっ?喋れない?」

「はい。話せません
でも、耳は聞こえますから、大野さんの言ってる事は理解できます
なので、そんなに不便はないと思いますが、大丈夫ですか?」

「あ…はい、大丈夫、です…」

大丈夫だけど、ちょっと残念な気はした…

あの唇から、どんな声が発せられるのか、興味はあったから

「もしかして、櫻井さんが、彼女にモデルをやらせる事を嫌がったのは、それが原因ですか?
彼女自身、外に出る事を嫌がってる、とか…」

そんな事情を抱えていたなんて、もちろん知らなかったけど
俺はとんでも無く、彼女の負担になる様な事をお願いしてしまったんじゃないか?

「いえ、違います。
最初に言いましたが、私は彼女に何の魅力も感じません
松岡と貴方の言う事は、今でも理解しかねます」

やっぱりそこは断言するんだ

「なら何故、今回引き受けてくれたんですか?」

櫻井さんは『ふぅ…』っと息を吐いた

「あなた方の言う事は理解出来ませんが
実際、松岡の撮った写真の出来は素晴らしかった
そして、貴方の描く絵も…」

櫻井さんの前髪と眼鏡の奥の瞳が、真っ直ぐ俺の方を向く

「俺の描く絵?」

「はい…貴方が松岡の事務所から帰られた後、貴方の事を調べさせていただきました
失礼ですが、貴方の事を存じてなかったので…」

「まぁ、まだ駆け出しのペーペーですから、知らなくて当然です」

櫻井さんは、首を横に振った

「何点か絵を拝見させていただきましたが、とても素晴らしかったです
こんなに才能豊かな方が彼女を必要としていて、懇願されるのであれば
協力すべきなのではないかと…」

「それでオッケーしてくれたんですか?」

「はい。それにとても興味が湧きました…
あのモデルを、貴方がどんな風に描き上げるのか」

櫻井さんの口角が、また上がった
口元だけでも優しさが伝わる笑顔…

俺も、貴方のありのままの笑顔を見てみたくなった

ちゃんと目も見える状態で、貴方はどんな笑顔を浮かべるのだろう…

絵が出来上がった際には、是非拝ませてもらいたいものだ

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