
ホントノ私ハ、此処ニイル
第2章 第2話
刺身はその切り口や彩り、盛り付け方など細心の注意を払って為される加工です。
一刃一刃、引き身で静かに包丁を滑らせる様は、丁寧に肌を舐めてくれているようにも見え、また、それに添えられたゴツゴツとした手が、柔らかいタッチで自分の体の上や中を這い回ることをつい想像してしまうのです。
仮に、出刃がSMでいうところの“ご主人様”だとすれば、刺身包丁はさながら女性の体を知り尽くした“紳士”的な存在でしょうか。
そのどちらをも兼ね備えている鮮魚の作業場は、わたしのお気に入りの場所なのです。
