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やさしく愛して

第1章 やさしく愛して

         8

 そんなことが続いていたとき、校了日で次の日が休みと言うと、
 「じゃあ、
  霧子さん、
  ワインを飲みませんか」
 「いただきます」
 「スペインのが、
  あるんです」
 「美味しそう」
 疲れていた体に、ワインは、ほんとに美味しかった。
 東京で、交際していた男性に裏切られ、大阪の出版社に来たこと。
 仕事は面白いが、ときどきフッと寂しくなるときがあること。
 そんなことを話しているうちに、眠くなってしまい、気がついたら、朝だった。
 恒さんの布団に寝ているのがわかり、慌てて起きた。
 恒さんは、ソファーで、にこにこしていた。
 「やぁ、
  目がさめましたか。」
 「ごめんなさい。
  布団を占領したみたいですね」
 「いや。
  もう一組あるんですが、
  霧子さんが、
  夜中に帰りたいと、
  言うかもしれない、
  と思って」
 「それで、
  ソファーに…」
 「はい。
  あっ、
  いや」
 わたしは、思わず、恒さんに抱きついた。
 そして、ワンワンと声をあげて泣いた。  
「こんなに、
  優しく、
  ウグッ、
  なんて、
  優しい、
  ウグッ」
 恒さんは、困ったように手を泳がせていたが、優しく抱きしめてくれた。
 「霧子さん。
  気のすむまで、
  泣いたらいい」
 「うん。
  ウグッ。
  うれしいよ~、
  ウワーン」
 その日、わたしと恒さんは、愛しあった。

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