テキストサイズ

やさしく愛して

第1章 やさしく愛して

         9

 それからは、わたしは仕事が終わると、恒さんの家に泊まるようになった。
 そんなある日、恒さんが、
 「霧子さん。
  海を見に行こう」
 と言った。
 「海を見に?」
 「うん。
  霧子さんは、
  胸のなかに、
  なにかまだ、
  抱えているみたいだから、
  海を見て、
  波を見て、
  忘れたらいいなと…」
 「行きたい。
  連れていって」
 そして、今、ここにいる。
 海に夕刻がせまってきて、旅館に向かった。
 離れ屋に案内されて、ベランダに出てみると、海が真っ赤に染まっていた。
 「きれい」
 「霧子さん。
  君の胸のなかのものが、
  全部流れて、
  真っ赤になっているんだよ」
 「そうだね」
 「すこし寒くなった。
  温泉に入ろう」
 離れ屋についている露天温泉に、一緒に入った。
 「あーっ、
  気持ちいい。
  恒さん。
  つれて来てくれて、
  ありがとう」
 「これで、
  霧子さんは、
  私だけを、
  みてくれる。
  私のほうが、
  嬉しいよ」
 「うん。
  わたしは、
  もう、
  恒さんだけ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ