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take a breather

第10章 Lotus

「座って待っててね 飲み物淹れてくるから」

智くんが椅子まで引いて ご丁寧にエスコートしてくれた

こんなことされた事ない…

当たり前か 普通はされないよな
女性じゃないんだから

されるとしても高級レストランくらいで
残念ながら俺はまだ そんな所で食事をした経験はない

なんだか照れるな…

「はい、今日も冷たいのにしといたよ」

「ありがと…」

隣の椅子に智くんが座ろうとした時
お店のドアが開く気配がした

「こんにちはー」

「誰か来たよ?」

「誰だろ?翔ちゃん以外来る予定ないんだけど…」

智くんが工房と店を仕切ってる窓の方へと歩いて行く

「あ、侑李…」

「ゆうり?」

「ん、前の店で一緒に働いてた後輩…
どうしたんだろ?
ちょっと行ってくるね」

「うん…」

智くんが店へ入って行き
俺はその様子を窓から覗いた

「どうした?侑李」

「大野くんっ」

智くんの姿を見て嬉しそうに笑う彼

小柄で可愛らしい…

「何か用か?」

「何もないですけど…
用が無いと来ちゃダメですか?」

途端に哀しそうな目をする

「イヤ…ダメじゃないけど
仕事どうしたのかと思って」

「今日は休みです
だからずっと大野くんの事が気になってたんで様子を見に来たんですけど」

「そうだったのか…
悪いな折角の休みなのに」

「ぜーんぜん!大野くんに会うためなら仕事だってサボっても良いくらいですよ」

「そんな事したら職場に迷惑かかるだろうが」

「じゃあ仕事辞めるんで
僕のこと ここで雇ってくださいよ」

「それはムリだな…
どれくらい売れるかわからないのに
人を雇うことなんて出来ないよ」

「タダ働きでもいいですよ?
大野くんの家に住まわせてくれて
ごはんさえ食べさせて貰えれば」

「やだよ…俺 お前に対してそんな責任持てねぇもん
自分の生活でいっぱいいっぱいだよ」

「えぇ〜、じゃあ僕が大野さん養ってあげるんで 一緒に暮らしましょ?」

「それもムリ…」

智くんがすぐに返事を返すと 侑李くんは眉毛を下げ

「やっぱりダメですか…」

と、寂しそうに呟いた

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