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take a breather

第10章 Lotus

翌日、12時より少し前に智くんの店に到着

店の外まで漂う甘い香り

「こんにちは〜」

ドアを開けると店内はその香りが充満していた

幸福感を感じさせる匂いだな…

「いらっしゃい 翔ちゃん!待ってたよ」

フニャッと笑う智くんが奥から出てきた

「凄く良い匂いがするね」

「だろ?焼きたてのパンの匂いは最高だよ
俺、子供の頃からこの匂いが大好きでさ
それでパン屋さんになろうって決めたんだ」

「匂いだけで決めたの?」

「うん、そう!」

凄いな…匂いだけで決めた夢をちゃんと実現させるなんて

子供の頃の夢なんて 高校生の時には叶わないものだと決めつけ
夢は所詮夢でしかないんだと早々に諦めたのに…

「翔ちゃん、お昼食べないで来たでしょ?」

「うん、智くんのパンをご馳走になるつもりで来たから」

「よかった。翔ちゃんと一緒に食べようと思って俺も食べないで待ってたんだ
先にお昼にしよ?」

「ありがとう、昨日から楽しみにしてたんだ」

「ほんと?嬉しいなぁ
さ、こっちに来て」

智くんの後に続き工房に入っていく

作業台の上には焼きたてであろうパン達が並んでいた

「美味しそう…」

「色々焼いてみたからさ、好きなの食べてよ
今、コーヒー淹れるね」

「ありがとう」

並べられたパンはどれも美味しそう…

う〜ん、これは悩むなぁ…
オーダーしたミルクフランスは絶対食べたいし
焼きたてのクロワッサンも魅力的だ

「ふふっ、真剣だね?翔ちゃん」

コーヒーを置きながら智くんが可笑しそうに笑う

「だって どれも美味しそうで悩んじゃうよ」

「じゃあさ、少しずつ試食してよ」

「えぇ?そんな贅沢出来ないよ」

「翔ちゃんが食べた意見を聞きたいんだ」

「俺、そんなにパン 詳しくないよ?」

「だからいいんだよ、誰が食べても美味しいと思って貰えなきゃダメなんだから」

「あ、そっか…」

「ね、だから俺に協力して?」

「うん…そういう事なら協力させて貰う」

「ありがとう」

「お礼を言うのはこっちだよ
こんな贅沢そうそうないって」

そう言うと智くんが嬉しそうに微笑んだ

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