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take a breather

第1章 Now or Never

「ありがとね、翔くん」

「え?何が?」

キョトンとした顔で俺を見る。

「ん、色々…」

「色々?」

「モデルをしてくれたこと、絵を褒めてくれたこと、美味しいお茶を煎れてくれたこと。
そして何よりも、今日ここで俺と出逢ってくれたと…」

翔くんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに微笑みを浮かべた。

「俺も、智くんと出逢えて良かったよ?
だから、俺もありがとう」

俺の想いとは違ったものだろうけどさ、そう言って貰えたことが凄く嬉しい。

「あっ…」

突然、翔くんが声をあげた。

「どうしたの?」

「智くん、今日家に帰るんだよね?」

「うん。何も決めないでフラっと出てきたから、もちろん帰るよ?」

「電車もバスも、たぶん、もうないよ?」

「え⁉マジでっ⁉」

「うん…マジで。
ここ、電車もバスも9時台で最終が出ちゃう」

時計を見ると10時を過ぎていた。
絵を描くのに結構時間掛かったからなぁ…
翔くんの美しさを描き写すには、ちょっとやそっとの時間じゃ無理だ。

「しゃあない、金が掛かるけどタクシー使うか。
泊まる宿も無さそうだもんなぁ」

「ねぇ、もし良かったら、ここに泊まっていけば?」

「へっ?」

「みっちゃんに確認してみるけど、大丈夫って言ってくれると思うから」

「え、でも、迷惑なんじゃ…」

「ううん、全然大丈夫。
それに俺、まだ智くんと一緒にいたいな…」

わかってるよ…翔くんが俺と同じ気持ちでいるはずなんかないってさ。

でも、そんな風に頬を染められたら期待したくなるだろ。

「うん。俺も…まだ翔くんと一緒にいたい」

翔くんは嬉しそうに微笑んだ。

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